かっちゃんは、昔からの何でも話せる古い飲み友達。
そんな、かっちゃんと今日もいるのは「沖縄の老舗の味」と書かれた
ノレンのかかる高架下の安酒場。
まばらに入ってくるお客で、バックに流れるユウセンの歌が、入口の
ドアに仕掛けられた「チャリン」という音にかき消される。
すると、海ブドウを頬張っていたかっちゃんが、泡盛のグラスを見ながら
想い深げに話し始めた。
「おまえさあ、阿貝って覚えてる?」
「女の子? たしか小学校の時の同級生じゃなかったっけ」
「そうそう、その阿貝。細面ですらっとしてて、ふわっとしたセーターとか、よく着てた」
「いつも笑顔だったね」
「おまえは、すぐ引っ越しちゃったから知らないだろうけど、あいつもいろいろ有ったんだよ」
かっちゃんは、グラス片手に奥の灯りをすかすように眺めると、
沖縄名物の豆腐ようを楊枝で一筋こすり上げて口に運ぶ。
その目には、昔の情景が浮かんでいた。