かっちゃん と たて笛

飲み仲間のかっちゃん。
同年代の気さくな友人。
これは、飲みながら彼から聞いたちょっとしたお話です。


昔、かっちゃんがまだ、高校生だった頃、ひょんな話を母から言われました。
「なんかね、隣のヒカルちゃん。笛を教えて欲しいんだって」
「なんで、僕に?」
「なんでも、かっちゃんが小さい頃、毎日 笛を吹きながら
家に帰ってくる様が、印象的だったらしくてね。
なんでも困っているらしいのよ。とにかく一度聞いてみてくれる?」

「ふ~ん」

なんだか、良くわからない話で、かつ自分の事で手一杯な若者の
かっちゃんには面倒な話でしたが、小学生のヒカルちゃんは
何度か会ったことのある男の子で、まあまあ静かな子でしたから
それほど、大変ではないだろうと思ったのでした。

4~5日経って、ヒカルちゃんがうちにやってきました。
12月の とある夕暮れ。
その頃、暖房も備えられていない居間で、かっちゃんはヒカルちゃんの
たて笛を見ることになりました。

ヒカルちゃんは、おずおずと、たて笛を吹きはじめました。
ピ~。ドレミぐらいは吹けるかぐらいで、後は空気が抜けて
裏返った不協和音になってしまいます。

「まず、ドレミファソラシドが出来るようにしよう。
そしたら、どんな曲でも吹けるようになるから」

かっちゃんがそういうと、ヒカルちゃんは黙って力なく頷きました。

ドレミ・・・
そう簡単に手の指は動かないのでしょう。
どうしても、笛の穴がふさげず、不協和音が響いてしまいます。
姿勢も悪いかな。。。そんなところを直して、初日は終わりました。

二日目も、三日目も、ヒカルちゃんは来ては、不協和音を鳴らしながら
頑張っています。
姿勢を直したり、指の位置をずらさせたり、そんなことをやりながら
ドレミの音を繰り返し吹かせました。

ふと辛そうなので、休ませて、お茶を飲ませながら手を見ると
指にはしっかりと穴の跡が付いています。
自分のできる限りの力で、締め付けているのです。

かっちゃんは、そのうち、力を入れなくても穴を塞げるようになるよ
だから、今はちょっと我慢してしっかり穴を塞ぐことを覚えようね
と励ましていましたが、ふと こんな問いをしました。
「どうして、うまく吹けないんだと思う?」
すると、ヒカルちゃんはモジモジと下を向き辛そうにしました。
そして、思ってもいない答えが返ってきました。
「僕が悪い子だから」
「え?」
「悪い子だから、笛がふけないんだ」

「・・・どうして、そう思ったの?」
「そう言われたから」
「誰に言われたの?」
「音楽の先生。。。」

びっくりしました。先生としてこんなことを言う奴がいるなんて。。
でも、かっちゃんは、その先生を知っていました。
あまりいい先生ではないことも。

「あの先生のことは気にしなくていいよ。先生だけがそんな事言ってるんだろ?」

すると、ヒカルちゃんは、さらに辛そうに下を見て泣きそうになりながら
搾り出すように小さな声で言いました。

「それに・・・ママ。」

かっちゃんは言葉を失いました。
しかし、ヒカルちゃんがなぜ、ココまで物静かだったのか
なぜ辛そうに笛を吹いていたのか、それがはっきりとわかりました。
でも、じゃあ、この子に一体なんて言ってやればよいのか。。。
どうしたら受け止めてやれるのだろう。
かっちゃんの視界の端で、風もないのに何かがパタリと落ちました。

なぜそんな風にしたのかわからないけど、
一瞬の後、かっちゃんは笑い出しました。
「ハッハッハ。いやゴメン。でも可笑しくてさ。
いいかい。よく聞いて」

かっちゃんは 向き直り、ヒカルちゃんの目を見ていいました
「ヒカルちゃんは悪い子なんかじゃない。
僕はヒカルちゃんを毎日見てよく知っている。
君はとてもよい子だ。絶対に悪い子じゃないよ。
そんな事と言う奴はどうかしてる

それにね。
笛はどんな子でも吹けるんだよ。だから笛をふけないことは
全然悪い子って事じゃないんだよ。」

「でもママも」
「ママは、ちょっと先生に言われてわからなくなっちゃってるんだと思うよ。
僕にもそれがどうしてかわからないけど。。。」

ヒカルちゃんは、ボーっとした表情で かっちゃんを見つめていました。

「だからさ、練習して、笛を吹けるようになって先生を見返してやろう
先生の話ならば、笛が吹ければいい子なんだろう。
そして、ママにも良い子なんだってわかってもらおうよ」

かっちゃんが言うと、ヒカルちゃんの目の奥で何かが光るのがわかりました。
「うん。。。うん、僕がんばる」
初めて、吹っ切れてちょっと笑顔がかすかに見えた ヒカルちゃん。
明らかに、そこには幼い子ながらに決意が見て取れました。

それから1時間ほど練習して、ヒカルちゃんは帰っていきました。
12月の誰も居ない冷えた居間で、かっちゃんは物思いにふけりました。

責任は重大です。彼がすぐに笛を吹けるようになるでしょうか。
一生懸命、今でも練習しているのです。
ある意味彼の小さな手には、まだあの笛は大きすぎるのかもしれないのです
でも、笛がふけなければ、彼はどうなるでしょう。
笛を吹いて、彼は良い子だと母親に証明しようとしているのに。。。

かっちゃんは取り返しのつかないことをしてしまったような気になりました
どうなるだろう。どう指導できるのだろう。不安でいっぱいになりました。

その時、ふと落ちたものに目がいきました。あの時、確かに風もないのに
あのカードだけが、ピアノの上から落ちたのです。

それを、取り上げると、MerryChristmas と書かれたそのメッセージカードには、
満面の笑顔のサンタクロースが、かっちゃんを見つめていました。

その笑顔を見ていると、なんだか、かっちゃんは不思議に不安がなくなっていくのを
感じました。
「よし、できることをしよう。きっと大丈夫だ」

母に頼んで、練習を換わってもらったりもしながら2週間近く
出来るだけ早く帰りながら、ヒカルちゃんの特訓は続きました。
それでも、なかなか姿勢がよくなりません。指もどうしても時々隙間が開いてしまいます
大分よくなっているんだけど、まだ吹けるところまで行っていません。

その夜、隣のうちから大声でヒカルちゃんのお母さんが喧嘩しているのが聞こえてきました。
どうやらヒカルちゃんと喧嘩をしているらしいのです。
(結構いつも大声は聞こえるうちなのですが)
「だから、お前は悪い子なのよ。だから笛だって吹けないんだわ」
「ちがうもん」
「なにがちがうのよ」
「ちがうもん。悪い子じゃないもん」
「悪い子じゃないの。こんなことして、笛もふけないし、先生にも言われて」
「悪い子じゃない。悪い子じゃない。
悪い子じゃないもん。そう言ってくれたもん」

「誰がそんなこと言うの」
「かっちゃんが悪い子じゃないって、とってもいい子だって言ってくれたもん」

お母さんは絶句した後
「そうなの・・」といい、その後 泣き声だけが、聞こえてきました。

かっちゃんは、それをハラハラしながら聞いていました。
よっぽど隣に行こうかと思いましたが、それもなんだかきまずい様に思い
迷っているうちに、声がしなくなってしまいました。

その翌日。帰ってくると、母が言いました。
「ヒカルちゃんのお母さんから、笛の指導はもういいって言ってきたの。」
「え、じゃあどうなるの?」
「お母さんが、自分でできるからいいっていうのよ。私もまだやりかけだから
って言ったんだけど。。。」

どう思えばいいんだろう。あれで、ヒカルちゃんはどうなるんだろう。。。

実を言うと、かっちゃんは高校の2年生でした。そろそろ自分の進路も
考えなければいけない時期で、人の面倒を見ている時間はなかったのです。
本来ならば、さらにお母さんに話にいけばよかったのかもしれません。
でも、自分の母親に想いを話した後、自分の事で手一杯になり
後の事は忘れてしまいました。。。。

それから一年が過ぎ、かっちゃんの家族は、引越しをすることになりました。
かっちゃんが高校を出るのを待って、単身赴任してくれていた御父さんの所に
家族で行くのです。

最後に、隣に皆で挨拶に行くと、ヒカルちゃんが、黙って奥に引っ込みすぐに
戻ってきて、たて笛を吹き始めました。
最近の流行歌を流暢に感情を込めて吹き終わると、そそくさとまた奥に引っ込みました。
ちゃんと挨拶しなさい。そういわれてでき来て、お辞儀をしてまた去っていきました

お母さんが言いました。
「ありがとうございました。あの頃、私 子育てに悩んでいたんだと思うんです。
何も自信がなくて、先生からも突き放されて、それを子供にあたっていたんですね
子供から話を聞いて、はっきりとわかったんです。これじゃいけないって」

かっちゃんは高校生。話の半分も理解できませんでした。
ただ、お母さんにも大変なことがあるんだ。そう思いました。

かっちゃんは、今でも縦笛を見ると、あの時の少年の目を思い出すそうです。
そして今どうしているのかなあ、そんなことを思うそうです。

でもひとつ、不思議なことがあるんだよ。かっちゃんは言います。

あの日見たクリスマスカード。当時、あまりクリスマスカードって流行っていなかったんだ
ましてやうちなんかさ。
母に聞いても覚えがないんだそうな。実際、僕も翌日以降見てないんだよ。
だからさあ、あれは誰かから僕へのクリスマスカードだったんじゃないかと
今は思うんだよ。誰かからの。。。

その時のメッセージ。かっちゃんは、なんとなく今はわかるような気がするそうです。

「恐れるな、汝は我とともにある」

皆さんの心にも、今宵きれいな星が降りますように。

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p.s.
クリスマスにちなんだお話は、今年はこれでおしまい。
皆さん、いいクリスマスを過ごしてくださいね~^^)y

↓クリスマスにちょっといい話はこちら
2007年記事
ヴァージニアに愛を込めて
ルドルフを知っていますか
クリスマスキャロル
2008年記事
こころのチキンスープ
エリクソン博士とおばあさん
シークレットサンタ
かっちゃんと縦笛

2008年ちょっとした話の記事
マザーテレサ
座右の銘


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Filed under: マイタウンストーリー — みみすけ 11:13 PM  Comments (3)

3件のコメント
  1. じっくり読んでしました^^
    読みつつわが身を反省(^^;)
    知らぬ間に子供達を傷ずつけているかも。。。
    ドキッ!

    Comment by しましまパパ — 2008年12月21日 11:20 AM
  2. 朝から涙してしまいました……
    ヒカルちゃんの気持ち、かっちゃんの気持ち、
    そしてお母さんの気持ち。
     
    ちょっとだけ今年のクリスマスが特別になりそうな気持ち。
     
    みみすけさん、ありがとう。

    Comment by りるっち — 2008年12月21日 11:41 AM
  3. ■□□□  しましまパパさん こんばんは
     
    コメント、この記事返し忘れていた。
    まずいまずい
     
    いやあ
    しましまさんなら大丈夫ですよ。
     
    それに、やっぱそれも含めて親子だと思ったり(自己正当化?^^)
     
    ■□□□  りるっちさん  こんばんは
     
    コメント、この記事返し忘れていた。
    まずいまずい
     
    ども ども です。^^
     
    そうですね。人の心、私もそんな風に思いました。
     
    こちらこそコメントありがとうございます。

    Comment by みみすけ — 2008年12月27日 9:33 PM
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